「がん遺伝子」は怖いもの?
私たちの体の設計図である遺伝子は、1950年代、ワトソンとクリックが二重らせん構造を発見してから飛躍的に解明が進んできました。
ちなみに、遺伝子は、生体の特徴(遺伝情報)を指定するDNA領域であり、ヒトには約2万種類の遺伝子があります。
がんは“遺伝子の異常を原因とする疾患である”と、現代医学では教えています。
そして、がんは遺伝子異常が一つだけでは不十分です。複数の遺伝子異常が必要です。
このとき、特に、がん細胞の発生や異常増殖などの原因となる遺伝子を“がん関連遺伝子”といい、多くのがん関連遺伝子が見つかってきました。その機能から“がん遺伝子”と“がん抑制遺伝子”とに大きく分けられています。
がん遺伝子は、細胞増殖を促進する機能を担っていて、増殖因子や細胞周期の進行などに関わるタンパク質を生成します。過剰に活性化をきたす遺伝子異常を起こしたときに発がんにつながります。
一方、がん抑制遺伝子は、細胞増殖を抑制する機能を担っていて、細胞周期の停止や、DNA修復、アポトーシス誘導などに関わるタンパク質を生成します。不活化をきたす遺伝子異常を起こすと発がんにつながります。
このがん遺伝子とがん抑制遺伝子は、車のアクセルとブレーキに例えることができ、アクセルであるがん遺伝子とブレーキであるがん抑制遺伝子が正常に機能することで、車の速度(細胞増殖速度)が適正な範囲に調整されています。
ここで、がん関連遺伝子は、名前に「がん」がついているので、がん遺伝子やがん抑制遺伝子があれば、即がんになるというように考えがちですが、そうではありません。私たちの遺伝子には、もともとがん遺伝子とがん抑制遺伝子があり、それが正常に機能しているのです。
そして、私たちの食事や生活習慣の悪化によって細胞環境が悪化したことで、正常に働いていたがん関連遺伝子に異常をきたし、結果、それらの生み出す異常なタンパク質ががんを発生させるのです。
ですから、「がん遺伝子」は“悪者”でなく、怖くはないのです。
特に、がん抑制遺伝子の方は、普段から傷ついたDNAの修復などに役立っています。特に、有名ながん抑制遺伝子の「p53(TP53)」は、主に転写因子として、数百ある多くの標的遺伝子の転写を活性化することで発がん・がん進展を抑制する多種多様な機構に関わっています。DNA損傷などの緊急時に活性化して、細胞周期停止、DNA修復、アポトーシス、血管新生抑制など多数の機能を持っています。
細胞環境に優しい生活習慣を身に付けて行き、がん遺伝子が真面目に働ける環境整備こそ、真の健康と予防・治療になると思っています。
(参)がんがみえる