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サイモントン療法の「ビリーフワーク」の具体的な方法

前回の不健全思考を健全思考に効果的に変えていく作業である「ビリーフワーク」をして見ましょう。ちなみに、「ビリーフ」とは「信念」という意味であり、「ビリーフワーク」は「信念への取り組み」ということになります。なお、患者さんだけでするのではなく、家族などのサポーターさんも取り組んでください。 注意点は、このビリーフワークは、自分の否定的な感情が自分自身の生活の妨げになっていると感じたときにだけ行うようにする、ということです。わざわざ気分のよいときに、問題点を探してまで行う必要はありません。
[ビリーフワークの手順] ① 感情や肉体的痛みの確認 自分の中に精神的、肉体的痛みがあることを確認してください。そして、そこにある否定的な感情を見出して書き出しましょう。(例 不安) ② 用紙の用意 白紙の中心に縦に1本の線を引きます。 ③ 思考(思い込み)を列挙していく 線の左側に、その否定的な感情を生み出している原因と思われる思考(思い込み)を5つ以上書き出します。 サイモントン療法に取り組む人々の内容は、世界のどの国でもほぼ共通した結果となっています。例えば、痛みをもたらす思考の第一にあげられるものは、「私は健康になれない」、「何をしても無駄で、私は苦しんで死ぬ」という思考です。このような思考をすべて書き出していきます。 ④ 思考(思い込み)の評価 書き出した思考が健全か不健全かを、「モルツビーの5つの質問表」に照らし合わせて評価します。自分の思考が健全であると定義するためには、この5つの質問表のうち、3つ以上がYESである必要があります。 「モルツビーの5つの質問表」(例 がんになった私は、二度と健康になれない) 1. この思考は事実に基づいていますか? …NO。健康になる可能性はあります。 多くの人は、「がんは致命的な病気だ」と言っているかもしれませんが、必ずしもがんで死ぬとは限らないということは事実です。 2. この思考は自分の健康や生命を守るのに役立ちますか? …NO。役立ちません。 3. この思考は自分の短期的・長期的目標を達成するのに役立ちますか? …NO。役立ちません。 4. この思考は自分の悩みや問題を解消・解決するのに役立ちますか? …NO。役立ちません。 5. この思考は望ましい気分をもたらしますか? …NO。いい気分にはなりません。 ⑤ 健全な解釈への書き換え 左側に書いた思考が不健全であることが分かったら、右側に、それに対する健全な思考を書き込んでいきます。 この「私は健康になれない」という思考に相対するのは、「私は健康になれる」でしょう。これは、可能性としての「なれる」です。断言としての「なる」ではありません。 ここで大切なことは、くれぐれもポジティブシンキングにならないようにすることです。ポジティブシンキングは、現実からかなり離れた考え方であり、逆にプレッシャーや敗北に対する恐怖を生み出してしまう場合があるので、もっと地に足のついた考え方をする必要があります。 ⑥ 書き換えた文章を読んで評価する この右の部分を書き換えて、その後読んでみてスッキリしたり、楽になったというのが適切な状態です。通常、否定的な感情が日常生活を妨げているときは、その大きさは、0から10のスケールで表すと7以上という状態です。そして、「スッキリした」という状態は、そのスケールの大きさが半分以下になっている状態です。 大切なのは、そのときの思い込んでいる不健全な思考が何か、それに相対する、不健全さを打ち消すような健全な思考とは何か、ということです。右側を読んでみて、その苦しみの大きさが2や3などの半分以下になったら、うまくいっていると考えてよいでしょう。 ⑦ 健全思考への変換を学習する ここまでで書き換えが終了した段階で終わりではありません。実はこのビリーフワークは、書き換えを行ったところからが始まりです。 書き換えが終わったら、清書し、その紙またはノートを常に持ち歩きます。コピーを何枚か取って、常に携帯するとよいでしょう。 否定的な感情が湧き出てきたときに、左側の不健全思考と右側の健全思考の両方を読み上げてみて下さい。その際、わざわざ書き換えた左側の不健全思考を読むのは、自分自身がいかに非論理的な思考によって、好ましくない感情を作り出しているかを把握して、思考を書き換えることの大切さを再認識するためです。 私たちの感情は常に、出来事にではなく、私たちの考え方に比例しています。この作業の重要さを認識すればするほど、取り組みの効果は上がっていきます。 ⑧ 健全思考の定着を促進する 否定的な感情の有無にかかわらず、1日3回、健全思考を読み上げます。 この作業においてもっとも困難な場面は、心底、「自分は健康になれない」と思い込んでいるときです。自分が、「私は健康になれる」という言葉を読み上げたとたん、「そんなことは信じられない。まやかしだ!」という反応が自分の中に出てくるような場合です。 これは、誰もが体験することであり、自分の認知と感情との間に不一致が起こっていることによるものです。このような現象は、新しい考え方を自分の中に導入するとき、誰にでも起こるということを理解しておいてください。自分が信じられないことを訓練して、それを獲得していくということはとても大変な作業です。 しかし、私たちには、「『健康になれる』という思考を選択する権利」があります。「自分はそれを繰り返し練習することによって、健全な思考を獲得することができるようになる。今はその過程にいる」と考えてみましょう。 また、より効果を上げるために、きちんと取り組みに意味を与えて、それをしっかりと定着させることを意識してください。 この作業はエネルギーが必要ですから、どうかまず、私たちに喜びを与える作業や意味のある作業、エネルギーの高まる作業を行ってから取り組むようにしてください。個人差はありますが、だいたい3~6週間この作業を続けると、新しい健全思考が自分のものとして定着するようになり、ビリーフワークの紙を取り出さなくてもよくなるはずです。1、2カ月たっても変化がない場合は、不健全思考が明確に書き出されていないか、健全思考が不適切であることが考えられます。そのような場合は、きちんとワークを行えるセラピストの助けを求めたほうがよいでしょう。 新たな考え方を定着させる際に大切な姿勢は、自分自身に寛容になることです。焦らず、じっくり取り組みます。くれぐれも、一足飛びをしようとせず、着実に半歩ずつ、気長に取り組みましょう。 このように、今まで信じていないことを信じるという作業はとてもエネルギーを要するプロセスですが、非常に効果の高いワークです。ぜひ、やってみましょう。 (参)サイモントン療法